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#思い出の姿

  • 執筆者の写真: toshiki tobo
    toshiki tobo
  • 2021年5月5日
  • 読了時間: 5分

工房をオープンさせた真美さんのところへ

幼馴染の桃子と一緒に遊びに行ってきた。

桃子と会うのも成人式ぶりだ。


ふたりは奇遇にも高校時代にデッサン教室で

親交があったという。

山梨の世間の狭さには驚くばかりである。


真美さんとの再会がきっかけで

勝手に同窓会が開けるわけだ。

勝手に同窓会おめでとう。


桃子とは新宿南口で待ち合わせた。

久しぶりに会った桃子は

今の話、未来の話をたくさん聞かせてくれた。

素敵な話だった。


再会はいつも過去に引きづられる傾向がある。

でも、そうでなかった。

過去の話がなくても、十分に満ち足りるほどの

言葉がそこにはあった。溢れていた。


少しの手土産をもち、初めての西部新宿線で

工房のある西東京市へ向かった。

まるで小旅行にでも行くような心持ちだった。

待ち合わせに少々遅刻気味で焦っていたところ、

真美さんから「道に迷った」との連絡がきて、

その焦りは眩しいほどの青空へ消えていった。


20分ほど電車に揺られ、最寄駅から歩いて工房へ向かった。

もうすぐ工房に着くというとき、

僕らに気づいた真美さんが全力で駆け寄ってきてくれた。

桃子と真美さんも本当に久しぶりの再会だったようで

それは嬉しそうに肩を抱き合っていた。


彼女たちは確かに友達であって、

きっとこれからも友達なんだろうと、

そう感じた。ずっと友達なんだろう。


工房ではまずは真美さんの作品に触れ話を聞かせてもらった。

そこにはたゆまぬ情熱があって、

これが彼女の聖域なんだと、そう思った。


買ってきた3種類のちょっとだけいいケーキをすべてを3等分し、

断面の美しさに打ち上げ花火のような一瞬の感動などをし、

僕らはそれらを瞬く間に吸い込むのであった。


僕は小さなころから1つの食べ物を

複数に分けることに何となく抵抗があった。

だからふたりがケーキにナイフを入れる決断をしたとき

それはさも同然という顔をしながら、

その発想はなかったとちょっと眉をピクッとをあげたのであった。

ここ数年そういうことがいくつかあった。

友達が言い出して、はじめて"分ける"という

選択肢が生まれるのである。



矢継ぎ早にやってくる話題にワクワクしながら

大きな笑顔でそれらを咀嚼していった。

回転ずしにみたいにね。とにかく笑った。


ふたりは互いの思い出の姿を懐かしむ側面を持ちつつも、

その姿は隔離された過去のひとつではなく

それは今もあり続ける要素のひとつであって、

それが、未熟で、脆くて、儚かったことを

分析しているようにも見えた。

ふたりの話は端的で明解だった。

おじさん博士みたい。


でも、「あの人は今何してるのかな?」にたいして、

「あの時〇〇と付き合ってたよね?」

みたいな返答に、やっぱり女の子だなと感じたりもした。


空が紺色ががかってきたとき、

空腹に耐えかねた僕たちは近くのファミレスに向かうことにした。

"オリーブの丘"。聞いたこともない。

でもなんだかワクワクした。


3人で歩いた道はのどかで、道沿いの畑では

つつじが見ごろを迎えていた。

紺とオレンジが入り混じる空が

ほころびかけていた友情をやさしく包み、護るように

僕らをふんわり照らしていた。




オリーブの丘は恐ろしい場所で全てがおいしかった。

桃子は完全に食堂のおばちゃんと化していて

小食の真美さんにあらゆるものをサーブしていた。

僕が次の料理を選ぶ余地なく、

テーブルの上においしい料理が運ばれてきた。


真美さんは順風満帆そうに見えて

どことなく不安そうだったけれど、

おいしそうにご飯を食べていたから

大丈夫だと思った。


桃子は桃子で色々と大変そうだったけど

食べるのが誰より早くて、

大丈夫だと思った。



帰り際、ほころびかけていた絆は

完全に新調され、以前より綺麗になっていた。

絹の糸のように滑らかで光り輝いていた。


実は今日、過去の僕が身勝手に置き去った点と点を

結ぶことができた。

そのとき同時に、ふたりのなかにこれまた勝手に置き去った

少しの怖さと漠然としたモヤモヤを消し去ることができたのだ。

僕にとっての大きな一歩で、とても、それはとても嬉しかった。

そんなものがあるとはつゆ知らず

僕はのんきにふたりに再会していたわけだけど、

初めて知ったその怖さやモヤモヤは僕にとっても恐ろしく

だけど自分だけではどうしようもないものだと思った。


彼女たちだけではない。

今まで出会ったほぼすべての人たちに

その怖さやモヤモヤを僕は置き去りにしてきたと思う。

でも僕も必死だったのだ。わからなかった。

やっぱり知らないことって、怖いことなんだと思う。


勝手に他人に置き去ったそれらだが、

気づかれていないかもしれないし、

勝手に取り除かれているかもしれない。


焦ると余計ひどくなってしまいそうだから

ゆっくり時間をかけて誰かの手を借りながら

どうにかしてゆきたいと思っている。


真美さんと別れた後、新宿まで戻り

小一時間桃子と散歩をした。


人のまばらな新宿は不思議な街で、

人だかりで判断していた場所から人がいなくなると

どこがどこだかかえって分かりにくくなるようだ。


目の前を一組の男女が歩いていて、

どうしても女性をホテルに連れ込みたい男性と

まんざらでもないけど断り続ける女性が、

堂々巡りのやり取りを続けていた。

僕らは行く末が気になり気づかれないように

後ろを追った。


「嫌がってるように見えて、いざ途端にやめると

女はつまらないもんなんだよね。」

桃子はそんなことを言った。なるほどなと思った。

「あの男、あと一押しで行けると思ってる」

とも言っていた。

いけ好かないといった表情を浮かべ

桃子ははっきりそう言い放った。


しばらく追った後、彼らがUターンし、

僕らとすれ違った。


「死んでもあの男は御免だ。」

口をそろえて僕らはそうつぶやいた。友情だなと感じた。


仕事ができる新宿は元気が少なくても新宿だった。


今日も遊びに来てくれてありがとう。

人は変わるもの。

そうは知っていても記憶のなかの姿をつい期待してしまう。

「そうあるだろう。」「そうに違いない。」

でもそれは一つの手がかりに過ぎなくて。

今の瞳には何が映る?

それでは、また明日。


お粗末様でございました。



 
 
 

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